脳血管内治療とは 脳血管内治療とは
脳血管内治療とは手足の血管からカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、頭の血管までカテーテルを進めて、レントゲンの透視像を見ながら、脳血管の病気を血管内から治療する方法です。脳血管内治療の一番の特徴は、頭を切らずに治療が出来るため、全身麻酔をかけずに治療することも可能な事が多く、開頭手術に比べて体の負担が小さい治療法であることです。開頭手術が困難な状態の患者さんや手術だけでは危険性の高かった病気の治療も安全に行えるようになってきました。
脳血管内治療科で扱う疾患
対象となる主な病気は脳動脈瘤、脳や脊髄の動静脈奇形・硬膜動静脈瘻、脳主幹動脈閉塞による脳梗塞、内頚動脈狭窄症など多くの脳血管の病気が挙げられます。
脳動脈瘤について 脳動脈瘤について
脳動脈瘤という病気は脳の動脈に動脈瘤というコブができた状態です。脳動脈瘤ができる原因は明らかではありませんが、高血圧、喫煙、動脈硬化、加齢といった後天的要因や、家族性といった先天的な要因が関わっているようです。脳動脈瘤自体は無症状のことが多いのですが、まれに脳神経を圧迫して脳神経麻痺症状をきたすこともあります。しかしながら、脳動脈瘤でもっとも問題になるのは、動脈瘤壁が破綻し出血する、つまりくも膜下出血の原因であるということです。くも膜下出血になると突発する頭痛や意識障害を引き起こし、約半数は即死あるいは昏睡状態におちいり、病院に搬入されて最善の治療を受けたとしても、病前の状態で社会復帰可能なのは、約25 %という病気です。
脳動脈瘤の治療には、開頭手術と脳血管内手術があります。どちらも一長一短があり、一概にどちらが良いということはありません。当科では、それぞれの患者さんにもっとも適している治療法を複数の医師で話し合って決定しています。動脈瘤破裂(くも膜下出血)に対しては、発症からできるだけ早期に開頭手術あるいは脳血管内手術を行い、その後の合併症に対する予防策・治療を行います。未破裂動脈瘤に関しては、動脈瘤の場所、大きさや患者さんの年齢や全身状態などから総合的に手術すべきかどうかを検討した上で決定しています。
脳動静脈奇形について 脳動静脈奇形について
脳動静脈奇形という病気は脳の中で動脈と静脈が脳組織を通らず直接つながってしまった病気です。胎児(胎生早期約3週)の時期に血管は動脈,毛細血管,静脈に分かれますが,脳動静脈奇形はその時期に発生する先天性異常です。しかし,動静脈奇形は子孫に遺伝する病気ではありません。動脈と静脈が脳組織を通らず直接つながっているため動静脈奇形の部分では血液が異常に早く流れています。また動静脈奇形の部分は正常の血管に比べて壁がもろく、その結果脳出血やくも膜下出血を発症し、死亡または重い後遺症を生じることがあります。また、毛細血管を通過しない血液は、脳との間で酸素や栄養、老廃物や二酸化炭素の交換ができないため、脳が正常に働けなくなります。そのため、てんかん発作などで未破裂の状態で見つかることもありますが、これまでなんら病気の兆しも無いのに突然の頭蓋内出血で見つかることが多い病気です。最近では脳ドックなどで偶然見つかることも多くなってきています。
統計によれば出血を起こした動静脈奇形を治療せず放置すれば毎年2-3 %前後の確率で再出血を生じると考えられています。具体的に患者さんの動静脈奇形がいつ再破裂するかの予測は現在の医学水準では残念ながら不可能です。しかし,10 年,20年という単位で考えると動静脈奇形が再び出血し死亡または重い後遺症をもたらす可能性は高いと考えられます。今後の治療は出血を防止し、症状の進展を防止することです。動静脈奇形の治療には開頭による動静脈奇形摘出術や血管内治療による動静脈奇形の塞栓術、ガンマナイフ(特殊な放射線治療装置)があります。
放射線治療あるいは外科手術が治療しやすくなるように、当科ではそれらの治療の前に血管を閉塞する治療をします。
硬膜動静脈瘻について 硬膜動静脈瘻について
硬膜動静脈瘻という疾患は、何らかの原因により硬膜の持つ固有の動脈が静脈洞と直接吻合した状態をいいます。圧の高い動脈系が圧の低い静脈系へと流れ込みますので、静脈洞内の圧が上がり静脈系のうっ滞が生じます。静脈系のうっ滞により静脈は拡張し、時には逆流を呈することにより、脳内出血やけいれん発作、部位によっては目の充血や眼球突出、拍動性の血管雑音あるいは認知症様の症状など多彩な臨床症状を呈します。 硬膜動静脈瘻の発生頻度は約0.3人/10万人/年間と言われており、成人疾患のほとんどが後天性であると考えられています。
近年ではカテーテルを用いた血管内治療が標準的治療として行われています。静脈洞に入り込む異常な動脈側から治療をする経動脈的治療、あるいは、うっ血している静脈側から治療をする経静脈的治療があります。これらを組み合わせて行うこともあります。血管内治療で完全に治せない場合は、開頭手術やガンマナイフによる放射線治療を行います。 経動脈的治療では静脈洞に入り込む異常な動脈をプラチナ製のコイルあるいは医療用の接着剤であるNBCAを用いて塞栓します。異常な動脈は細かいものを含めると複数存在することもあり、経動脈的治療だけで根治するケースは多くありません。 経静脈的治療は異常動脈の入り込む静脈洞に静脈側からカテーテルを送り込み、異常動脈が吻合している部分を含めて静脈洞を塞栓します。それにより、無数に入り込む異常な動脈の流入を一括して塞栓させることができます。経静脈的治療は根治を望める治療法であり、この疾患の第一選択となります。
超急性期脳梗塞について 超急性期脳梗塞について
発症から4.5時間以内の超急性期脳梗塞に対するtPA静注療法は、標準的治療として広く行われています。しかし本治療は再開通率が低いこと(およそ30-40%)や適応時間が短いことが問題であり、その適応患者は限られています。そこでtPA静注療法によって症状の改善が認められない場合や治療の適応外の症例に対して、カテーテルを用いた脳血管内治療が行われるようになりました。現在日本で行われる血栓回収療法(血管内治療)の対象となるのは一般的には発症から6時間以内で、かつ心臓に近い頭蓋内の太い血管(中大脳動脈、頭蓋内内頚動脈、脳底動脈など)の閉塞を認めている症例です。(発症6時間以上の症例でも対象になることがあります。)MRIなどの検査で診断した際に脳梗塞が完全に完成していないと推定される場合(壊死に陥った領域が少ない)や症状が画像で見られる範囲より重症な場合も良い治療対象となります。逆に症状が完成している場合や、症状が非常に軽い場合、出血などを合併している場合などは合併症などを考慮して適応から除外する場合があります。
最近では血栓回収デバイスによる血栓回収療法が行われていますが、血栓を溶かす薬剤を閉塞血管へ直接注入し血栓を溶かす治療や風船(バルーン)を閉塞部位へ挿入し、閉塞か解除する治療を行うこともあります。
頚動脈狭窄について 頚動脈狭窄について
頸動脈狭窄とは、頸部頸動脈が動脈硬化を起こし、血液が流れる道が狭窄した状態です。脳に向かう血液の流れる道が狭いため、脳血流の悪化、または狭い箇所で血液の流れが悪くなり小さな血の塊(血栓)を作り、これが頭蓋内の血管を詰まらせてしまう結果、脳梗塞を発症します。脳梗塞予防のため、頸部頸動脈狭窄病変を治療する方法には、内科的治療、頸動脈内膜剥離術、頸動脈ステント留置術があります。
頸動脈ステント留置術(CAS)は、これまで行ってきた頸動脈内膜剥離術と異なり、カテーテルを用いて血管の内側から狭窄部位に到達しステントを留置する、切らない手術です。現在は直達手術の高リスクの症例が対象となっていますが、症状を呈する場合は50%以上の狭窄において、無症状の場合は80%以上の狭窄においてCASが推奨されています。この手術の合併症として脳梗塞が一番に挙げられます。次いで、血流が回復することにより脳の血流が相対的に過剰となる過灌流症候群を呈することがあります。脳梗塞の合併症は約5%程度といわれていますが、デバイスの進歩で脳梗塞の合併症のリスクはさらに低くなっています。CASは局所麻酔で行うことができ、当院ではご高齢でも自立された患者様には積極的に治療しています。
セカンドオピニオン セカンドオピニオン
治療に関して、第三者である医師の意見も聞いて判断したいと思われる場合があると思います。 当院では、他院の医師の意見をお聞きになりたい場合は、診療情報の提供をさせていただきます。患者さんが病気や治療法の理解を深め、納得のいく治療法を自らが選択できるように、そして、納得して治療が受けられるようにお手伝いをいたします。