乳腺外科

乳がんの分類 乳がんの分類

非浸潤がんと浸潤がん

乳がんは、非浸潤がんと浸潤がんとに大きく分けられます。非浸潤がんは、乳がん全体の約20%を占めています。非浸潤がんは、Ductal carcinoma in situ(DCIS)と呼ばれるStage(ステージ)0の乳がんであります。この乳がんは、乳管や小葉の中にがん細胞がとどまっている段階なので、転移をすることはほとんどないと考えられています。適切な治療を行えば、局所の治療(手術)だけで、ほぼ100%治ります。

浸潤がんは、乳がん全体の約80%を占めています。浸潤がんは、がん細胞が乳管外に広がっていく段階で、周囲の血管やリンパ管にがん細胞が入り込んでいくために、がん細胞が全身を巡ってる状態(微小転移の存在)が想像できます。浸潤がんでは、局所の治療(手術)に加えて、こうした微小転移を体から消失させるための全身の薬物治療が必要になってきます。

局所の治療 局所の治療

局所治療の種類

局所治療の中心は手術療法と放射線治療となります。手術療法とは、乳腺にできたしこり(乳がん原発巣)とその近くの脇の下に転移したリンパ節(腋窩リンパ節)を手術によって取り除いてしまう治療で乳房切除術、乳房温存手術、センチネルリンパ節生検、腋窩郭清の選択肢があります。

乳房切除術とは、乳がん原発巣を取り除くため、乳房をすべて取ってしまう方法で、乳房温存手術とは、しこりの部分だけを取ってしまう方法です。 乳房切除をしても乳房温存手術をしても、生存率はほぼ同じという結果が出ていますので、患者さん個人で選択してもいいということになります。しかし、乳房温存手術がすべての患者さんにできるわけではなく、しこりの大きさやその場所(乳首の近くなど)によってはできない場合があります。

センチネルリンパ節生検と腋窩郭清

腋窩リンパ節を取り除く手術(腋窩郭清)は、以前は全例に行っていましたが、リンパ節に転移がなく結果として取る必要性がなかった患者さんたちも多くいました。そうした患者さんは、腋窩郭清後の後遺症として上肢のリンパ浮腫と、一生付き合っていかなければなりませんでした。

最近では、腋窩リンパ節に転移を認めない患者さん、つまり腋窩郭清を行わなくてもよい患者さんを見つけ出すために、センチネルリンパ節生検という方法が考え出されました。

この方法は、がん細胞が原発巣からリンパ管に流れて最初にたどり着くリンパ節を(手術中に見つけ出して、このリンパ節にがん細胞を認めなければ(転移してない)、それ以降のリンパ節にも転移してないと考えて腋窩郭清を省略できる根拠となるわけです。もちろん腋窩リンパ節に明らかに転移を認める場合(触診、画像上、腫れたリンパ節を認める)は、腋窩郭清によって転移したリンパ節を取り除かなくてはなりません。

放射線治療

局所療法である放射線治療は、手術で肉眼的にみえる癌細胞は取り除いても、目に見えない顕微鏡レベルの癌細胞が近くに残存する可能性があるため、それらを根絶させるために必要になります。乳房温存手術を行った場合は、温存した乳腺内に顕微鏡レベルの癌細胞が残存する可能性があるため、放射線治療を行います。 乳房切除を行った場合でも、しこりが5cmより大きい場合やリンパ管に癌細胞が多く認められた場合なども皮膚や大胸筋内に顕微鏡レベルの癌細胞が残存する可能性があるため、放射線治療を行います。さらに腋窩リンパ節に4個以上の転移を認めた場合も放射線治療を行います。このように放射線治療は、手術後の補助療法として残存する顕微鏡レベルの癌細胞を根絶するために行います。放射線治療は、通常は25~30回毎日通院して行われます。

乳房再建術について 乳房再建術について

方法

  • 1. 人工乳房を使う方法
    エクスパンダーの挿入 → 人工乳房への入れ替え
  • 2. 自家組織を使う方法
    広背筋皮弁法・腹直筋皮弁法・穿通枝皮弁法

再建を行う時期

  • 一次再建(乳がんの手術と同時に行う場合)
  • 二次再建(乳がんの手術後に改めて行う場合)

再建術の回数

  • 一期再建(自家組織または人工乳房により1回で乳房を再建する方法)
  • 二期再建(エクスパンダーを挿入して皮膚を伸ばしてから二回目に人工乳房に入れ替える再建法)

※同時再建とは、乳がん手術時に同時に自家組織や人工乳房で再建すること(一次一期再建)を指します。最近では、乳がん手術と同時にまずはエクスパンダーを入れて、後日人工乳房に入れ替える方法が増えてきています。

全身の治療 全身の治療

全身の治療について

全身の治療の中心は、1)化学療法(脱毛、嘔気などを伴う)、2)ホルモン療法、3)分子標的薬(ハーセプチン、パージェタなど)の薬物治療となります。

治療の目的は、再発率、死亡率を低下させるために行います。

浸潤性乳癌は比較的早期の段階で全身的な転移(顕微鏡レベルの癌細胞が、全身に蒔かれた状態)が起こっており、いかに手術を拡大してもこれらを抑制することはできません。したがって手術療法、放射線治療などの局所療法のみでは、不十分であることが理解されると思います。こうした早期の段階での全身的な転移を根絶させてしまうことが出来るかどうかが重要なポイントであります。

現在、浸潤性乳癌にはLuminal A、Luminal B、Luminal HER2、Triple Negative、、HER2 enrichの5つのタイプが存在します。診断する際に行った針生検の結果で判定します。それぞれのタイプによって使用する薬剤が違ってきます。

術前化学療法

手術前に行う薬物治療のことを術前化学療法と言います。手術後に行う薬物治療を術後補助化学療法と言います。どちらを行っても乳がんの再発率や生存率は同じであります。

温存手術の適応から外れる腫瘍径が大きい症例や今のままでは手術が困難な局所進行乳がんの症例などは、術前化学療法が第一選択となります。

術前化学療法によって70~90%の乳がんが小さくなりますが、逆に腫瘍の増大や病勢の進行が起こり、手術する時期を逸してしまうこともあり得ますので注意が必要です。

術後化学療法

術後の治療では、抗がん剤を何種類かを組み合わせて同時に使用します。

先の乳がんのタイプの中でも、Luminal HER2、 Triple Negative 、HER2 enrichのタイプの乳がんでは、再発予防の化学療法は、通常、必須とされている。一方、Luminalタイプでは、その基本はホルモン療法であり、化学療法の適応は個々の症例で検討されています。

Luminal Aと判定されるとホルモン療法のみとなるが、Luminal Bと判定されると化学療法が追加されます。

ホルモン療法

ホルモン療法は、がんそのものがエストロゲン(女性ホルモン)の影響を受けるかどうか、つまり、エストロゲンをエサとして増殖するタイプの乳がんに行う治療です。

先の5つのタイプのうちLuminalタイプの乳癌が対象になります。

ホルモン療法は、体内のエストロゲンの量を減らしたり、がん細胞がエサであるエストロゲンを取り込むのを邪魔することで、がんの増殖を抑えます。

閉経前と閉経後では、エストロゲンの産生する経路が異なるため、使用する薬剤にも違いがあります。

分子標的薬治療

分子標的薬は、がん細胞をピンポイントでねらい撃ちすることで、大きな副作用なしにがんの増殖を抑える効果が期待できる治療薬で、術後に分子標的薬であるトラスツマブ(ハーセプチン)とペルツズマブ(パージェタ)と抗がん剤と併用して使用することで、再発する危険性が半分近くに抑えられることがわかっています。Luminal HER2、 HER2 enrichのタイプの乳がんが対象となります。以下が代表的なレジメンである。

  • AC療法 → ドセタキセル+トラスツマブ±ペルツズマブ(3週に1回、4サイクル)
  • AC療法 → パクリタキセル+トラスツマブ(毎週、12回)
  • TCH療法(ドセタキセル/カルボプラチン/トラスツマブ) (3週に1回、6サイクル)

ただし、トラスツマブ±ペルツズマブは投与開始から1年間投与。

上肢リンパ浮腫 上肢リンパ浮腫

人間のからだには、血液が流れる血管とリンパ液が流れるリンパ管があります。脇の下のリンパ節には上肢の末梢(指先)からのリンパ管が流入し、その中をリンパ液が流れています。脇の下のリンパ節を切除してしまうと、リンパ液の流れが止まり川が氾濫するかのようにリンパ液がリンパ管から皮下組織にあふれ出して上肢が水浸しの状態になってしまうわけです。このようになった状態がリンパ浮腫です。

以前は、すべての患者さんに腋窩リンパ節郭清を行っていましたが、センチネルリンパ節生検でがんを認めなければ腋窩リンパ節郭清を省略するようになったため、手術の際の腋窩リンパ節郭清はかなり減ってきました。さらに腋窩リンパ節郭清も縮小傾向にあり、重症のリンパ浮腫を起こす頻度も減ってきました。まれにセンチネルリンパ節生検によってもリンパ浮腫は起こることがあります。リンパ浮腫の発症時期は、手術後3年以内に発症する方が多いですが、数年以上経過した後に発症することもあり、一生を通じて経過観察が必要です。

手術後にリンパ浮腫をできるだけ発症させないようにするための予防が重要であり、日常生活の中で以下のような点に気をつけ、生活することが大切です。

最も重要なこと

  • 皮膚下の感染(蜂窩織炎)にならないようケガや虫刺され、肌荒れに注意すること
  • BMI=25以上(BMI=体重kg÷(身長m)2)の肥満にならないよう、体重コントロールに注意すること

意識して注意してほしいこと

  • 手術した側の腕を、時計、指輪、ゴムバンド、下着などで圧迫しない
  • 重い荷物を持ったり、仕事や家事で腕を酷使しない
  • 怪我や虫刺され、日焼けなどで手術した側の腕の皮膚を傷つけない
  • 皮膚を乾燥させないようにスキンケアに努める

リンパ浮腫の治療は、複合的理学療法を中心とした保存的治療が中心です。

  • 用手的リンパドレナージ
    うっ滞したリンパ液を用手的に深部リンパ管に流し込む
  • 圧迫療法
    弾性スリーブ・ストッキング・弾性包帯
  • スキンケア
    皮膚の乾燥しないように保湿に努め、傷や感染から守る

クリニカルパスのご紹介 クリニカルパスのご紹介

当院は一部の疾患、手術、検査でクリニカルパスを使用しています。

クリニカルパスとは、医療スタッフと患者さんが治療計画の情報を共有するため、患者さんのスケジュールを時間軸に沿ってまとめたものです。

主な治療について、公開していますのでご参照ください。

※患者さんの治療経過の状況によって、スケジュールは変更する場合があります。

  • 電話番号

    03-3451-8211(代表)

  • 初診受付時間

    8:00-11:30

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