弁膜症手術について -弁温存手術と小切開弁膜症手術
弁膜症手術について -弁温存手術と
小切開弁膜症手術
心臓は筋肉でできた袋のような内臓で体内に血液を送り出すポンプの役割をしており、収縮と拡張を繰り返しています。心臓のなかには弁という薄い膜があり、拍動するたびに、ドアの扉のように開いたり閉まったりします。この弁の異常による病気が心臓弁膜症です。息切れや足のむくみはよく自覚する症状です。弁膜症の中では「僧帽弁閉鎖不全症」や「大動脈弁狭窄症」が増加しています。
当院では、「弁膜症専門外来」を特設し、最新鋭心エコー機器を用いて外来にて弁膜症の正確な診断と病期判定を行っています。「僧帽弁閉鎖不全症」に対しては当院では早くから自己弁を温存する手術法「僧帽弁形成術」に取り組み、実績を積んでまいりました。一般的に技術的に困難とされる僧帽弁前尖逸脱症の弁形成術の手術成績でも、人工弁を用いず、自己組織である腱索を移植する方法や人工腱索を用いる方法など多彩な手技を用いて手術を行っており、良好な成績を出すことができています。僧帽弁形成術(自己弁温存術)においては抗凝固薬が必要でなくなるだけでなく、人工弁置換術より長く健康寿命を延ばすことが知られています。近年では、症例に応じて6~7cmほどの皮膚切開による「小切開弁膜症手術」をおこなっています。
大動脈弁狭窄症は大動脈弁が石灰沈着により固くなり心臓にとって大きな負担となる病気です。70歳以上の患者に多く認められ、重症の心不全の原因となる疾患ですが、初発症状は軽い息切れや動悸、むくみです。この病気においてはカテーテル治療(TAVI)も可能ですが、長期の予後を考えると開胸手術(人工弁置換術)のほうが成績が良く術後の生活の質がよい高い場合もあります。 TAVIか開胸手術のどちらが適切かは患者さんの状態によって異なります。ハートチームカンファレンス(循環器内科と心臓外科の話し合い)によって治療方針を決めています。
糖尿病を合併した患者さんの冠動脈バイパス術
小切開オフポンプCABG
糖尿病を合併した患者さんの
冠動脈バイパス術
小切開オフポンプCABG
狭心症や心筋梗塞の患者様に対して行われる「冠動脈バイパス術(CABG)」は、当科においてもっとも多く行われている手術です。過去の手術件数は1200件を越えており、現在も手術件数が増加傾向にあります。 狭心症、心筋梗塞の治療においては、循環器内科医師によって心臓カテーテル治療(PCI)も行なっています。心臓カテーテル治療の利点として、患者の体力の負担が少ない、入院期間が短いなどのメリットがあります。一方PCIに比べてCABGでは心筋梗塞の再発が少なく、再入院率、遠隔期死亡が少なく、健康寿命を伸ばすデータが出ています。患者ひとりひとりの病変はさまざまであり、PCIとCABGはそれぞれ利点と欠点があるため、治療方針は緻密に適応を決めるべきです。冠動脈バイパス手術あるいはPCIのどちらを行うべきかの判断は、当院においては循環器内科医とともにハートチームとして決定されます。すなわち循環器内科とともに合同カンファレンスをおこない、エビデンスをもとに十分な議論のうえ決定されます。
CABGの利点
中枢側に新規病変が出現し、仮に動脈硬化粥腫の破綻による急性閉塞をきたしてもバイパスグラフとによる血流が保たれるため遠隔期の心筋梗塞発症を予防できる。吻合した血管の分枝の血流も温存され心機能も変化しない。
糖尿病と心筋梗塞の関連とは?
最近の心臓病の話題として、糖尿病と心臓疾患の間に強い関連性があることが指摘されています。糖尿病の患者様の場合、症状がなくとも実は多くの症例で冠動脈の異常をきたしていること(無症候性心筋虚血)が解ってきました。当院は、古くから糖尿病の治療とその余病対策に力をいれてきた病院です。その結果、当科における冠動脈バイパス手術患者の糖尿病の保有率は75%を超えており、たくさんの糖尿病患者が手術を受けておられることが特徴です。一般的に糖尿病患者の心臓手術では感染症などの手術リスクが増大すると言われています。しかしながら、当診療科では糖尿病を抱えた冠動脈手術症例において豊富な経験をもっており、良好な結果を出すことができています。特に糖尿病の重症度に関わらず、合併症なく両側内胸動脈を使用していることが長期成績を向上させています。画像は両側内胸動脈を用いた冠動脈バイパス術後の冠動脈CT画像です。無論、糖尿病を持っていない患者さまについても同様に良好な治療結果が出ています。
両側内胸動脈を用いた冠動脈バイパス術(術後CT)
また、他疾患を抱えて抗血小板剤の内服が困難な患者さんや病変の少ない狭心症患者さんなどには「小切開オフポンプ冠動脈バイパス術」をおこなっています。7cmほどの小切開を左胸において人工心肺を使用せずに心拍動下に血管吻合を行います。
血管外科とのチーム医療によるハイブリッド大動脈手術、胸腹部人工血管置換術、自己弁温存大動脈基部置換術
血管外科とのチーム医療による
ハイブリッド大動脈手術、
胸腹部人工血管置換術、
自己弁温存大動脈基部置換術
2017年5月の新主棟完成に伴い、当院にはハイブリッド手術室が導入されました。当科では、胸部および腹部ステントグラフト指導医資格を合わせ持つ血管外科専門医師とともに、心臓血管外科専門医、指導医が協力してチーム治療を行っています。これにより開胸(または開腹)外科手術もカテーテル治療も両方が可能となり、どちらとも手術件数が増加しています。
大動脈瘤とは、ヒトの一番太い大動脈がふくらんで瘤(こぶ)を形成する病気です。動脈硬化が原因の事が多く、通常無症状で、気が付かない内にどんどん大きくなり、一旦破裂してしまうと、突然激痛が生じ、死に至ることが多い恐ろしい病気です。
一般的には胸部では6cm、腹部では5cmを超えると、破裂の予防のために大動脈瘤を切除して人工血管に取り換える手術が行われてきましたが、日本でも腹部大動脈は2008年から、胸部大動脈も2009年からステントグラフトを用いた治療が可能となりました。
ハイブリッド弓部大動脈置換術(開胸手術+ステントグラフト手術)
胸腹部人工血管置換術(胸から腹部に連続する動脈瘤治療)