病理組織診断 病理組織診断
生体検査による病理診断
患者の皆様の診療に、主として携わるのは、当該科の担当医(臨床医)です。しかしながら、癌の診療においては、病理診断によって患者の皆様の最終診断が決定されることがほとんどなのです。例えば、胃カメラで胃潰瘍が見つかった場合、カメラの画像のみでは癌が潰瘍化したものか(悪性)、それともストレスなどによる消化性潰瘍(良性)かを決めることはできません。そこで生体検査(生検と略します)により、潰瘍部の組織を少量採取して、それを病理専門医が顕微鏡で観察して、癌であるか良性疾患であるかを判定します。このようにして行われる生検診断が患者の皆様の最終診断となり、その後の治療をどう進めるかが決定されます。
切除検体の病理診断
さらに胃癌の治療法として胃切除(胃を切り取ること)が選択された場合、手術で切除された胃を病理専門医が詳細に検討します。そしてどれぐらい悪性度の高い癌であるか、どれぐらい進んでいるか、手術により癌が取り切れているか、リンパ節に転移はないかなどを診断します。このような病理組織診断により、癌再発の危険性、生命予後などが判定されます。悪性度の高い癌であれば、手術後に抗癌剤による治療を加えるなど、患者様の将来に影響の大きい決定が病理組織診断を元に行われます。病理組織診断は、全身の臓器の病気全てを対象としており、癌以外の病変の診断も行いますので、病理専門医は、膨大な知識と経験が必要となります。
胃癌:下方の管状の組織は正常部で、上方の丸く明るい細胞が印環細胞と呼ばれる癌細胞
術中迅速診断 術中迅速診断
例えば、胃癌の手術で癌が取り切れていないと、何のために手術を行ったのか分からなくなります。病理専門医は手術で摘出された胃が切り離された部位を顕微鏡で検討して、癌の取り残しがないかを確認して、執刀医に伝えます。もし切除した辺縁にまで癌が及んでいれば、さらなる切除が必要となります。また、癌の手術ではリンパ節を切除することがありますが、癌に近いところのリンパ節に転移があるとさらに離れた場所にあるリンパ節も切除しないと、癌を取りきったことになりません。このため手術中にリンパ節への転移の有無を判断します。このような術中診断は約15分ほどで迅速に行い、執刀医が手術方針を決めるために必要な情報を提供します。
病理細胞診断 病理細胞診断
組織そのものでははく、喀痰や尿、子宮頸がん検診においてブラシで擦りとった細胞や、腹水などを標本にして、顕微鏡で観察することにより、癌細胞の有無を調べます。病理組織診断に携わるのは病理専門医のみですが、病理細胞診断においては、細胞検査士(※)が重要な役割を果たします。病理細胞診断では、ます初めに細胞検査士が、採取された検体中に、癌細胞などの異常な細胞が含まれていないかを、顕微鏡で注意深く観察し、異常細胞を見つけたら、その細胞に印をつけます(スクリーニングといいます)。後に、同じ標本を細胞診専門医が再度観察し、最終診断を下します。
※細胞検査士
日本臨床細胞学会が実施する細胞検査士資格認定試験に合格した臨床検査技師です。この認定試験は、臨床検査技師が目指す数ある資格試験の中でも特に難解な試験ですが、弊院は5名の細胞検査士を擁します。
病理解剖(剖検) 病理解剖(剖検)
病理解剖の目的
わが国で行われている解剖には、系統解剖、法医解剖、そして病理解剖の三つがあり、それぞれ目的が異なります。系統解剖は人体の構造について、学習あるいは研究することが目的で、主に大学医学部において医学を志す学生実習として行われています。法医解剖は、異常死に対し、その死因を究明する目的で行われる解剖で、観察医務院や大学の法医学教室にて実施されます。 一方、私どもが執刀いたします病理解剖は、ご不幸にして病死されたご遺体を解剖することにより、病気の本態を解明することを目的としています。
病理解剖の歴史
病理解剖の歴史を紐解きますと、19世紀後半~20世紀初頭にかけて最も盛んに行われております。当時は正確な診断がなされぬまま、治療が行われることも多かったため、病理解剖は医療水準の引き上げに大きく貢献いたしましたが、21世紀を迎え、鮮明な画像診断や遺伝子学的診断といった様々な診断手法の目覚ましい発展により、年々、解剖数は減少し、また解剖の目的も時代の流れと共に変遷してまいりました。しかし、解剖をすることにより生前の診断・治療が適切であったかを検証し、その解析結果を担当医が知ることの大切さは、現代においても少しも変わるところはありません。また、治療効果の程度や死因を解明することは、ご遺族のお心の安らぎになるとも信じて、病理解剖と向き合っています。