お知らせ

　厚労省は令和元年9月26日に地域医療構想の議論を活性化するためにという理由で、診療実績などの一定の基準により再編、統廃合の対象として公立・公的病院424病院の名前を公表し、マスコミにも大々的に取り上げられました。

この中に済生会中央病院の名前が入っていたことに当院を知る多くの医療関係者、患者さんやそのご家族は驚き、当院で働いている職員にも大きな衝撃を与えました。

当院はこの地で100年以上にわたり地域の医療・福祉の向上を目的に事業を行ってきました。現在は地域医療支援病院、救命救急センター、災害拠点病院など、地域において重要な役割を担う病院に指定されています。また、社会福祉法人である済生会の病院として無料低額診療の実施や乳児院の運営などの社会福祉事業にも取り組んでいます。職員の多くは、地域の医療、福祉を支えることが当院の使命であると考えており、地域から信頼され頼りにされる中核病院であるとの自負を持って日夜業務に励んでいます。そのような当院がある日突然、厚労省から再編、統廃合の対象として指定されたことの不条理に憤りを感じます。

　今回、当院が指定されたことには特殊な事情があったと思います。もっとも大きな問題は選定の基準となったデータの信頼性です。今回の基準で診療実績として利用されたデータは、各病院から報告された2017年度の病床機能報告です。この報告では2016年7月から〜2017年6月までの1年間の入院患者数を報告することになっており、厚労省はこの1年間のデータにより各病院の稼働率を計算していますが、当院の稼働率は20％と通常では考えられないような低値が公表されています。当院は2017年5月に新しい病棟が完成し病棟編成が変わったため、年間の入院患者数ではなく2017年5〜6月の2ヶ月間のデータとして報告しました。これはこのように報告することに決められているからですが、厚労省はこの事情に関係なく、一律に1年間のデータとして稼働率を計算したことが異常な低値となった原因です。

　また、各領域別の診療実績として利用されたデータの信頼性の問題もあります。この診療実績のデータは上記の病床機能報告のうち、2017年6月の1ヶ月間だけのデータが利用されています。上述したように当院は2017年5月8日の連休明けに新病棟がオープンし稼働を開始しましたが、データの対象となった6月は稼働開始の翌月ですべての病棟がフルオープンには至っていませんでした。また、当院の分娩数は0と公表されていますが、分娩は新病棟オープンに伴って再開したためにこの時期はまだ準備中の時期でした。その他の領域でも診療実績は通常よりも低く抑えられていた可能性があります。

　当院が位置する医療圏（地域医療構想の構想区域）は区中央部医療圏で、文京区、台東区、千代田区、中央区、港区の5つの区から成り立っています。この地域は全国でももっとも多くの病院が林立している医療圏として知られており、大学病院などの特定機能病院も数多く含まれています。この医療圏の入院患者さんの多くは医療圏の外からの流入患者さんで、地域の患者さんだけではなく、東京都内、あるいは日本全国の医療の中心として機能していることがわかります。今回の選定基準には類似の機能を持った近接している病院が複数あるという基準がありますが、この地域は日本の中でも特別な医療圏と考えるべきなのです。そもそも地域医療構想の名のもとで、昼間人口が夜間人口の4〜５倍にもなるような特殊な地域内だけで自己完結するような病床数の適正化を図る意味があるのでしょうか？

　当院は地域医療構想の議論の活性化自体には反対しません。しかし、患者さんや職員の不安を大きくし動揺させるような、また風評被害の原因ともなる突然の病院名の公表という厚労省の今回のやり方には断固抗議します。また、信頼性に乏しい診療実績のデータだけをもとにして、その病院の地域での貢献度や存在意義をまったく無視した一方的な選定方法にも納得できません。

　今後、この地域の地域医療構想は区中央部医療圏の地域医療構想調整会議にて議論されることになります。当院はすでに平成29年10月に「公的医療機関等2025プラン」によって公表したように、今後も高度急性期機能、急性期機能を中心とした地域医療支援病院、救命救急センター、災害拠点病院として、この地域の中核病院の役割を果たしていきます。したがって、現在のところ、再編、統廃合の計画はまったくありませんので、患者さんもこれまで通り安心して受診していただければ幸いです。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　令和元年10月11日

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　東京都済生会中央病院

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　院長　高木　誠